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「未来づくり応援事業」全県セミナー(神戸クリスタルホール)

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8月19日(火)、神戸クリスタルホール(中央区東川崎町)で令和7年度「未来づくり応援事業」全県セミナーが開催され、第1部はスポーツジャーナリスト・大阪芸術大学教授の増田明美さんによる講演会が、第2部は兵庫県青少年本部表彰式が行われた。(主催/公益財団法人兵庫県青少年本部・兵庫県)

同セミナーは、青少年を取り巻く現状と課題、その対応策などについて学び、青少年の育成支援に対する理解・浸透を図るために行われている。今回は、昨年神戸で開催された「KOBE2024世界パラ陸上競技選手権大会」の組織委員会会長を務めた増田明美さんを迎え「『スポーツと地域と未来づくり』~スポーツの持つ力を活用して人や街を元気にする秘策は?」と題した講演会が開かれた。

「神戸は第2のふるさと」と話す増田さん。千葉県成田高校在学中に王子スタジアムで開催された第29回兵庫リレーカーニバルの5千mで日本新記録を樹立し優勝。当時の日本記録を大幅に更新したことから注目を集めた思い出の街、神戸。その神戸で昨年開催された世界パラ陸上競技選手権大会は「選手とボランティアと観客が一体になった素晴らしい大会でした」と振り返る。

1984年ロサンジェルスオリンピックで初採用された女子マラソンに、天才少女と呼ばれていた当時20歳の増田さんは、メダルを期待されて出場した。そのプレッシャーに潰され、調整も失敗し、不安なまま走り出したが、16 km地点で脚が止まってしまい途中棄権した。
途中棄権した時は「やっと終わった」と解放された気がしたが、日の丸を背負っていたため「日本には帰れない」と怖くなり、帰国後も寮に閉じこもり、練習もできない日が続いたと語る。その間、全国からたくさんの手紙が増田さんのもとに届いた。70歳の人からの手紙には、壮絶な人生が綴られ「みんな人生の波を乗り越えて生きている」と添えられていた。「明るさ求めて暗さ見ず」と葉書に書いてくれた人もいた。

こうした手紙にも励まされ少しずつ元気になり、途中棄権したコンプレックスを取り払おうと勇気を出して、4年ぶりに出場した大阪国際マラソン。沿道から「お帰りー」と声援を送られ懸命に走っていたが、27 km 地点で「お前の時代は終わったんやー」と男性から野次られ脚が止まってしまった。
みじめになって歩いていると、追い越して行った6人の市民ランナーが増田さんに気付き、ピタッと寄り添ってくれた人、肩をポンと叩いてくれた人、スポンジを持ってきてくれた人、中でも前を走っていた女性が何度も振り返って「一緒に走ろう」と声を掛けてくれ、ゴールすることができた。ゴールした時は「市民ランナーに支えられて弱い自分を卒業できた」と涙が止まらなかったという。「人を傷つけるのも人。人を救うのも人」としみじみ話す。

その後、40歳過ぎて出合った論語の「知好楽」を座右の銘にしているという増田さん。大舞台でメダルをとる人は、しっかり準備して、技術を持っているだけではなく、その競技を行うのが好きで本番の大会が始まるのを心から楽しみにしている。知っているだけでなく好きな人、好きだけでなく楽しめる人が最強なのだと。また神様が失敗を与える時は、成長させるためだとも気付いた。天才少女とちやほやされたままではワガママになっていたと振り返る。挫折を乗り越えてきた増田さんの話に参加者たちは、真剣なまなざしで聴き入っていた。

第2部では兵庫県青少年本部による、地域において優れた活動を展開している青少年個人および青少年団体と青少年指導者および青少年育成団体の表彰式が行われた。青少年の部では個人の8人と1団体、指導者の部では個人8人と1団体が選ばれた。

指導者の部で受賞した三木健市さん(洲本剣友会・76歳)は地元の洲本市で50年間、幼稚園年長から小学生を対象に剣道を教えている。厳しさの中にも愛を持って礼儀礼節から技法まで熱心に指導してきたことが評価された。「昔に比べると、剣道を学びたい人は減ってきていますが、増田さんのお話で聴いた『知好楽』をモットーに明るく楽しく続けていきたいですね」と微笑む。
青少年の部団体で受賞したガールスカウト兵庫県第11団(神戸市)は、こども食堂や放課後学習支援などを行い、地域のこどもたちの居場所づくりと見守り、さらに地域での体験活動の創出が評価された。

※「知好楽」とは…孔子の論語にある一節「これを知る者は、これを好む者に如かず。これを好む者は、これを楽しむ者に如かず」から取ったことば。

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