講演会「紛争地域における人命救助の最前線―ガザの真実を知る」

(上)清田明宏さん
6月16日(月)、神戸市外国語大学(西区学園東町)にて、同大学と神戸市看護大学(西区学園西町)共催による「紛争地域における人命救助の最前線―ガザの真実を知る」と題した講演会が行われ、学生と一般市民154人が参加した。
神戸市外国語大学では、同大学の魅力を広く知ってもらうため、学生や教員が行う有意義な活動を積極的に発信する「神戸外大魅力発信事業」を行っており、本講演もその一環で開催された。これまでも講演会・映画上映会、模擬国連への学生派遣など、さまざまな事業を実施しており、今年度も年間を通して英会話での国際交流イベントを実施するほか、言語や多文化共生などをテーマにした講演会を複数回開催予定だという。
今回の講演会では、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)保健局長で医師の清田明宏さんを講師に招いた。清田さんは昨年ガザ地区で合計100日を超える人命救助活動に取り組んでおり、ニュースでは伝わってこない現地の生の声を参加者に届けた。
最初にスクリーンに映し出された写真は、2021年6月19日に撮影されたガザの写真。ガザ地区は地中海に面した土地で、長さ50㎞、幅5~8㎞の地区。古代からアフリカとアジアをつなぐ交易の中継地として多くの人が行き交う歴史的な場所だった。写真には、近代的な建物が並ぶ海沿いの美しい風景が写されていた。そこから数年の間に、建物は破壊され瓦礫と化していく状況を、清田さんは数枚の写真や動画を流しながら説明した。
清田さんは2023年に日本とUNRWAの関係樹立70周年を記念して、ガザ地区で暮らすパレスチナ難民の学生3人が日本を訪問する活動に携わった経験があり、当時についても語った。ガザ北部の激戦区出身で家を失い、7歳までの記録がないというファティさんと、ジャーナリスト志望のジェニさんと、将来はサイエンスに関係する仕事がしたいラマさん。3人はガザから外に出て勉強するのは難しく、機会に恵まれない現状を訴えていたという。ともに広島を訪問した際には原爆資料館や平和公園を見学した。ジェニさん、ラマさんの女性2人は展示を見られないと目を覆ったが、ファティさんはガザの現状と似ていたことからあまり驚いた様子を見せなかったそうで、本人は「驚かなかった自分に驚いた」と話していたという。
清田さんは昨年から今年にかけて4回ガザを訪問している。1回目の昨年3月は知っていた風景が壊され、テントが立ち並んでいる様子に衝撃を受けたという。この頃、ガザ地区の南西端に位置する人口30万人のラファの街に、避難してきた約100万人が押し寄せていた。2回目6月にはゴミを漁る子どもが溢れ、下水が氾濫し、水不足、燃料不足もひどく、A型肝炎も蔓延していた。3回目の8月、4回目の12月も状況は悪くなる一方で、現地の人に聞くと、野菜やフルーツは2カ月見ていないと話したという。このような状況の中、清田さんらは残っていた結婚式場をクリニックにして、20万人以上の妊婦のケアをしたり、学校の一角にもクリニックを作り、薬を渡したり検診を行ったりしてきた。命を落とす仲間もいたそうで、命をかけて支援活動をおこなっている人たちがいるということを覚えておいてほしいと語った。
同大学国際関係学科3年の木村琥太郎さんは「将来、国連で働きたいので、現地の生の声を聞けたことは貴重な経験となった」と話した。司会を務めた国際関係学科の松田裕美准教授は「現在ガザで起きている深刻な状況を知り、強い衝撃を受けた。現地の映像や亡くなった方々の写真、生々しい証言が紹介され、報道では伝わりきらない人々の苦しみ、とりわけ瓦礫の中で学ぶ子どもたちの姿には、胸が締めつけられる思いだった。国連が抱える人道支援の限界や政治的課題について考える、貴重なきっかけを与えられたと思う」と語った。

UNRWAの現地スタッフ

ガザの学生たち