アニマルセラピー 〜ニューヨーク・グリーンチムニーズの事例から〜
6月30日(日)中央区文化センター(中央区東町)で「木下美也子氏講演会 動物との関わりが子ども達にもたらす影響―ニューヨーク・グリーンチムニーズの事例からー」が開かれ、約80人が参加した。(主催/神戸市)
アニマルセラピーについて学ぶ同講演会はこうべ動物共生センターの事業の一環として開催された。講師の木下美也子さんはアメリカ在住。情緒障がいや学習障がいを持つ子どもたちを自然や動物との関わりの中で治療する長期療養型施設「グリーン・チムニーズ」(ニューヨーク州)にてファーム教育部長を務め、こうべ動物共生センターのセラピー研究フィールドアドバイザーでもある。
感覚に偏りがある情緒障がいの子どもは感覚統合がうまくいかないことで表れる行動があると話す木下さん。「感覚統合」とは人が受け取る感覚情報(視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚の〈五感〉と、体のバランスを取る感覚、自身の体の動きや力加減に対しての感覚)を脳が整理、分類して身体をコントロールすること。同施設では子ども一人ひとりの感覚統合の困りごとを理解し、動物を介在させたプログラムや自然との関わりを通して適切な支援を提供している。「嗅覚に敏感な子どもには施設で育てているハーブの効能を取り入れ、リラックスできるにおいを探す」「小さな音でも過剰に反応する子どもにはヘッドフォンを用いて音を遮断するのではなく動物の鳴き声など自然の音に変えていく」と、いくつかの事例を紹介。また、子どもたちは動物の世話をすることでケアを受ける立場からケアをする立場になるため、自己中心的な考えの子どもが動物(自分以外)のことを考えるようになったり、自信に繋がるなどの研究データも出ているという。
木下さんは考え方が大きく変化しているという動物の福祉についても触れた。動物が心身ともに健康に過ごせるように配慮することを動物福祉という。「モルモットには餌を食べたり遊んだりする場所と隠れる場所と両方を確保することで選択権を与え、ストレスがかからないようにしている」と環境の配慮について例を挙げた。また「動物が触られたくないようであれば無理にふれあいの場に参加させない。直接触れなくても掃除などのお世話をすることでアニマルセラピーはできる」と話す。「羊は穏やかな心で接しないと怖がって逃げる性質。子どもたちは羊に寄ってきてもらえるための体の動きや感情づくりを考えるようになる」と、同施設での取り組みが動物に与える影響について「動物とする活動はすべて動物のケアに繋がる」と力強く話した。
講演後の質疑応答には多くの参加者から手が挙がり、関心の高さがうかがえた。自身が大病を患った時にアニマルセラピーの効果を体感したと話す西区40代女性は「動物の特性を活かしたプログラムや福祉など興味深いお話でした」と感想を話した。
※グリーン・チムニーズ…1947年、アメリカ・ニューヨーク州に開設。従来の教育環境に馴染むことができなかった子どもたちにAAT(動物介在療法)やAAA(動物介在活動)、AAE(動物介在教育)等を用いて個人が持つ可能性を引き出す支援を行っている長期療養型施設。
webサイト■https://www.greenchimneys.org
※こうべ動物共生センター(北区しあわせの村)…保護動物の譲渡、動物との「共生」のための教育・啓発活動を目的として2021年に開設。人と動物が相互に与える影響の科学的解明に務める。子どもが犬に行う本の読み聞かせ、動物を飼えないシニアと犬や猫のふれあい、子犬のしつけ相談など、さまざまなプログラムを行っている。 webサイト■https://kobe-chai.jp