100人の心こもる「糞掃衣」お披露目
5月25日(土)、大本山須磨寺(真言宗須磨寺派上野山福祥寺)(須磨区須磨寺町)にて「糞掃衣(ふんぞうえ)お披露目式 献香式と聞香会~お香とバイオリンと一絃琴の奉納」が開催された。
須磨寺で、昨年7月より進められてきた「令和の糞掃衣プロジェクト」。参拝者ら延べ千人の手により心を込めて作り上げられた糞掃衣のお披露目式が執り行われた。糞掃衣とは本来、不要になったぼろ布を洗い清め重ね綴った袈裟のことで、最上の袈裟として仏典に伝えられている。聖徳太子のものと伝わる糞掃衣をモデルに、須磨寺のサクラ、高野山のスギ・ヒノキなどを糸にして織り上げた布を用い、令和の時代に再現を目指した。
糞掃衣開眼供養では志野流香道21世家元継承者の蜂谷宗苾(そうひつ)若宗匠による献香式、遊山遍照院の大原英揮(えいき)住職によるバイオリン演奏、兵庫県無形文化財指定一絃琴の奉納演奏が行われ、訪れた200人を超える参拝者を魅了した。
同プロジェクトの発案は山口県般若寺の故福嶋弘昭住職。昨年急逝された福嶋住職の「和の心を多くの方に伝えたい」という遺志を須磨寺の小池陽人副住職が引継ぐ形で始動した。福嶋住職を兄のように慕っていたという小池副住職は「生前、福嶋住職は『般若寺を案内するから早くおいでよ』といつも声をかけてくれていました。『いつか必ず行かせていただきます』とお答えしながらも、忙しさにかまけ果たせていませんでした。今も私の中に大きな後悔が残っています。『人生にいつかはない』福嶋さんから、最後にそのことを強烈に教えていただいたような気がします」と話した。制作にあたっては奈良国立博物館学芸員の三田覚之さん、樹木由来のファブリック製品を製造する「縁樹の糸」代表の加藤貴章さんに協力を仰ぎ、福嶋住職の妻も完成を見守った。
北九州門司市から参列した濱田洋子さんは前日夜8時の船に乗り、当日8時半に神戸に到着したという。コロナ禍で自宅から出られなかった3年前、ユーチューブで小池副住職の動画を見て以来、仏教に興味を持ち年に数度須磨寺に訪れていると話す。「今日はどうしても見届けたくて」と長旅の疲れも見せず話した。
和裁奉仕衆としてプロジェクトに携わった中尾晴美さんは、参加者が一針一針心を込めて縫った布を繋ぎ合わせる工程や結び紐を縫う工程を担った。「七条袈裟と呼ばれる作りで、縦に3枚縫い合わせたものを7本作り、それを1枚に縫い合わせました。細かい作業でしたがとても幸せな時間を過ごさせてもらいました」と感慨深げに振り返っていた。
糞掃衣をまとう小池副住職
一絃琴の奉納演奏