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がん看護市民公開講座「今を生きるコツ~よりよく生きるために~」

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 10月7日(土)神戸市看護大学大学ホール(西区学園西町)で、がん看護市民公開講座「今を生きるコツ~よりよく生きるために~」が開催され81人が参加した。

 講師は、宝塚市立病院緩和ケア病棟、JCHO神戸中央病院緩和ケア病棟チャプレン・カウンセラーの沼野尚美さん。沼野さんは病院薬剤師から病院チャプレン・カウンセラーに転職。これまで10カ所のホスピスで勤務し、3000人以上の患者の生と死に寄り添ってきた体験から、今を生きている人々に「大切な5つの生き方」を伝えた。
 それは「前向きに生きる」「ユーモアを持って生きる」「感謝して生きる」「ベッドの上でも出来る趣味を持って生きる」「家族の絆を育てて生きる」ということだと話す。
 がんで死と向き合った時、人はたまらなく生きたいと思い、何故こんな目に遭うのかと苦しむ。そんな中でも自身を見失わず、想像する力で心を支えて生きた若い看護学生は「万が一、奇跡が起きて治ったら、並みのナースではなくスーパーナースになります」と宣言し、最期まで見舞いに来る友人と笑いあっていたという。まさかがん患者になるとは思っていなかった彼女は、患者の気持ちを痛感し、体験を生かして病棟で活躍する未来の姿を想像していたのだろうと話す。ある80代男性は、震災や事故、病気で妻子や孫を亡くし、何度も悲痛の涙を流してきたが、家族と暮らした思い出があるから大丈夫、天国は向こうから近づいてくるから怖くないと語っていた。
 人生の困難の前で何を想像出来るかが大切で、前向きに生きるためには過去の苦難を乗り越えた体験や信仰によって平安な気持ちが持てると話す沼野さん。

 次にユーモアについて。ジョークは皮肉と侮辱が入るので人を傷つけることがあるが、ユーモアは温かい交流の手段になる。多忙を極めていた沼野さんは、遠方の友人の葬儀に参列することが出来ずにいた。四十九日を過ぎてから1通の葉書が届きびっくりして見ると、紙飛行機の上にちょこんと座っている女の子の絵に「転居先 空の上 世界一周旅行するよ」と添えられており、胸が熱くなった。視点の転換をし、ユーモアのセンスを磨いて表現することを教えてもらったという。
 ある女性は、がんが骨に転移して歩けなくなってしまったのに「しょうがないわね」と受け止めていた。話を聴くと、「私は丁度いい家族を持っている。夫、子どもそれぞれ難点はあるけれど、私にとっては丁度いい。この病気も私には丁度いい」と言うので驚いた。人は何故、人生に不満を持ってしまうのかというと、それは他の人と比べるから。私たちが感謝して生きる道は、自分の人生が丁度いいと思えるかどうか。そう思えたら、自ずと感謝が生まれ、病気も受け止められて穏やかに最期まで生きることが出来る。
 そして、余命が少なくなってきて思うように体が動かせなくなっても、ある期間は生きていかなければならない。1日が長く感じられるようになる。その時に時間の使い方を教えてくれるものを持っておくと励みになる。ベッドの上でも出来る趣味、例えば俳句、川柳や絵を描くことなど。「今から何か見つけておくといいですね」と話した。

 最後は「家族の絆」について。昔と違って今は、家族の絆が希薄になっていると感じる。死期を前にした人が子どもに会いたいと願っても叶わないことがある。「子どもを愛さない親は居ないと思いますが、愛されたと感じないと子どもは来ません。あなたの愛は、子どもに届いていますか」と投げかける沼野さん。兄弟は一緒に育った共通の思い出があるので仲良く、同年代の友人や年下の友人とも仲良く、身寄りのない人は甥や姪を大切に。「今ならまだ間に合います。絆は日頃から育てておきましょう。皆さんが人生を豊かに生きられますように」と締めくくった。

 沼野さんの話に時には涙ぐみ、時には大きく頷きながら耳を傾けていた参加者から大きな拍手が送られた。看護師経験がある40代女性は「いろいろ大切にしなければいけないことを今、知ったことが良かったです。周りに悩んでいる人がいれば伝えていきたいです」と話した。

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