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講演会『「本当はこう言いたかった」と思えるために』

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10月12日(木)、神戸市外国語大学大ホール(西区学園東町)で、同大学が2017年より取り組む「魅力発信事業」の講演会を開催した。今年度は「いま伝えたい、ことばの力 ―コミュニケーション力を磨く―」をテーマに、語学力だけでは補えない、真意を伝えるために必要な力を、全4回の講演から探っていく。(主催/神戸市外国語大学、後援/神戸市・神戸新聞社)

第1回のこの日は、校正者の大西寿男さんによる『「本当はこう言いたかった」と思えるために』と題した講演会で、学生と一般参加者も含めた約250人が参加した。西宮市から参加した女性は、「NHKの密着番組での校正の丁寧な仕事ぶりに惹かれました。SNSもフォローし、自分の発信にもヒントがもらえたらと思い来ました」と話した。
大西さんは、「誰もが言葉を使って簡単に発信ができる時代、コロナ禍を経て言葉や人との距離感が掴みにくくなっていると感じます」と話す。講演の冒頭に、「言葉が相手にねじれて届いたり、逆に相手の言葉に傷ついたりした経験はないでしょうか?」と投げかけ、主に「書き言葉」が持つ力や性質について紐解き、言葉を正しく届けて受け取る付き合い方について話した。

校正者として、宇佐見りんさんなど芥川賞作家の小説をはじめ、週刊誌や医学の専門書など多くの原稿に接する中、どんなベストセラー作家や偉い学者の先生であっても、最初から何も問題がない原稿はないと言い切る。「人は間違える生き物だと痛いほど経験していますから、言葉に関して、校正者は自分のことも人のこともあてにしません。そうでなければ、ヒューマンエラーを防ぐことはできないんですね」と語った。
また校正には、原稿の誤りを指摘して損害を回避するリスクマネジメントの役割と、文字情報がより効果的に届くようにする、言葉をエンパワメントする役割があるという。書き言葉には「手ざわり、体温、色、声」などの生理的な情報もある。「カタカナか漢字か、表記の違いで受ける印象も大きく変わりますし、例えば、小説や漫画がアニメ化された時に声優さんの声に違和感をおぼえたことがある人は?」の問いかけにはたくさんの挙手が。「それは文字から肉声を聴いてるんですよね」という解説に、多くの人がうなずいていた。

会場からの「AI技術の進歩と校正の仕事の変化をどう考えるか」の質問には、「誤字脱字などのチェックはむしろ任せたい気持ちです。でも校正者には、身を削って書く孤独な作者を、縁の下から精神的に支える役目もあり、AIが果たしてその存在になれるだろうか」と校正者としての自負も覗かせた。そして「活字」には、〝たとえ独り善がりで言い足りない言葉であっても、正しいような顔をして一人でどんどん歩き始める性質がある〟とし、言葉が不完全でケアされない状態を校正者として、「言葉が泣いている」と表現した。「特に若い人には『言葉は伝わらなくて当たり前』を前提に、情報を発信する前に、相手のことを考えて読み直す、一呼吸置くなどしてリスクを避けて欲しい。それはもう校正なんです」と言葉へのケアを呼びかけた。
最後に、「校正者としては、『言葉が喜ぶほうへ』向かうことを願っています。みなさんの言葉が満ちたりたものになって、相手に届いて成就する。今日の話が少しでもそのきっかけになれば嬉しいです」と締めくくった。講演会は後日ユーチューブで配信予定。

【今後の講演会予定】
〈第3回〉12月7日(木)「これからの本屋」
〈第4回〉1月25日(木)「古い本からのメッセージ」
会場/神戸市外国語大学 大ホール ※参加無料・申込不要

※神戸外大魅力発信事業
https://www.kobe-cufs.ac.jp/about/miryoku.html

※公式YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/@kobe_cufs

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