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日本の三文オペラ/世界の三文オペラ

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7月1日(土)なでしこ芸術文化センター内西神中央ホール(西区美賀多台)で開催される『みわぞうsings三文オペラ』に先駆けて三文オペラを解剖するプレレクチャー「日本の三文オペラ/世界の三文オペラ」が、6月10日(土)西神中央ホール・アートスペースで開かれた。(主催/西神中央ホール)
講師は、ウィーン大学哲学博士(音楽学)で神戸大学大学院准教授の大田美佐子さん。約一世紀にわたって世界中で愛されてきた音楽劇『三文オペラ』について今回、演出家・劇作家である大岡淳さんの新訳で演じられる舞台の革新的な魅力とその楽しみ方を分かりやすく解説した。
『三文オペラ』は、ドイツの劇作家ベルトルト・ブレヒトが執筆した戯曲。クルト・ヴァイルが作曲を手掛けた音楽劇であり、1928年シッフバウアーダム劇場のこけら落し公演として披露された。大田准教授は「オペラと聞くと敷居が高いと思われがちですが、社会批判の元祖ともいえる楽しいミュージカルです」と話す。
『三文オペラ』は盗賊や乞食と娼婦の話で、原作は1728年にロンドンで上演された風刺的な喜劇『乞食オペラ』。18世紀初頭は英国経済のバブル期で、株価の乱高下や政治家のスキャンダルも相次いでいた。その腐敗した時代風潮を痛烈に批判・揶揄した『乞食オペラ』は大成功を収める。ブレヒトは『乞食オペラ』を19世紀末、女王即位の戴冠式を控えたロンドンに舞台を移し、ニューヨークウォール街の金融恐慌から世界恐慌が引き起され、第二次世界大戦へ向かっていく不安定な時代の前夜に『三文オペラ』として翻案した。
それ以降、東西のアーティストにより世界中で公演されてきた不滅の音楽劇『三文オペラ』。今回は大岡淳さんが、ドイツ語の響きを生かしながら日本語に替えて音に乗せた新訳で、チンドン太鼓奏者として1997年にデビューした、こぐれみわぞうさんが、ひとり5役でほぼ全曲を歌う。大岡さん自身も語りと歌、紙芝居を担当する。演奏は、クラリネットの大熊ワタルさんをはじめ、多士済々な面々。小編成ながらもチンドン、ジャズ、ジンタ(小人数の吹奏楽隊の俗称)のサウンドが劇効果として絶妙に『三文オペラ』をよみがえらせる。
大田准教授は、『三文オペラ』をより楽しむために、変遷する亡命作曲家クルト・ヴァイルの楽曲の一部を流しながら紹介。『三文オペラ』は、個性的な一人ひとりの声を大切にしながら表現し、音楽と言葉が拮抗する新しいオペラの原型と話す。
最後に大岡淳さんが飛び入り参加し、翻訳するにあたっての裏話を披露。大岡さんは「おそらくブレヒトが戯曲を書いた時、彼の頭の中で既に音楽が流れていた」と話す。それは例えば、盗賊と結婚したことを両親にほのめかす歌が、たくさんの韻を踏んでいることから分かるという。大岡さんは、このブレヒトの歌詞の面白みを損なわないように訳すのに苦労したと話し「深夜のファミレスで絶妙な訳を思い付き、上機嫌で自転車に乗って帰宅する途中、警官に呼び止められて職務質問を受けました」と笑う。
西神南から参加した藤澤和子さんは「のれる感じの曲だったので、今からオペラの展開が楽しみです」と微笑んだ。

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