垂水のいいね!スポット編 多聞寺
除夜の鐘が撞ける寺院 多聞寺
垂水区北部の地名となっている「多聞」という地の由来となった名刹は、除夜の鐘と初詣で大いに賑わう
大晦日になると日本各地では、人間の持つ108の『煩悩』を祓うため「除夜の鐘」が撞かれる。その鳴り響く鐘の音は、新年を迎える日本の風物詩となっている。しかし近年では残念なことに、都心部にある寺院では周囲の住宅への騒音の配慮などから、除夜の鐘を自粛するところも増えてきているという。
しかし、垂水区内にある「多聞寺」は住宅地の中に位置するが、「日本古来の伝統を護ろう」という考えのもと、毎年多聞保存会の人たちの手によって除夜の鐘を撞いている。同寺は、神戸市でも有数の名古刹であり、寺院がある一帯の地名には「多聞」が含まれる。取材の際に、齊川文泰住職にいただいた資料には、「当寺は平安時代貞観年中(西暦860年代)第56代清和天皇の勅願によって天台第四祖慈覚大師の創建、大師一刀三礼祈念ご自作の毘沙門天尊像の御胎内佛に当地芦中から出現の金銅毘沙門天を納めて安置されたのが御本尊であると伝わる」といった記述があった。さらに、江戸時代には江戸幕府から朱印状を与えられていたそうで、非常に栄えていた歴史を有していたことから、地名になったのだろう。
なお、建物そのものは、創建後120年で天災のため焼失した。その後、花山天皇の命で明観上人により再興されたという(現在の本堂は正徳2年〈1712年〉に再建されたもの)。 正式名を「吉祥山多聞寺」という同寺は、バス道に面していないため、地元の人以外はその存在に気づきにくいかもしれない。そのせいか、平日の昼に訪ねると、住宅地の中にあるとは思えない豊かな緑と静寂さに包まれた厳かな空気が院内には漂っていた。時折、お参りに来る人もいるが、厳粛な雰囲気を壊さないようにと、静かにお参りする姿が印象的だった。
ところが、普段の静かな雰囲気は、大晦日からお正月にかけて一変する。有名な古刹だけに、初詣に訪れる人が多く、普段は17時に閉められる門が、大晦日の夜から元旦にかけて一晩中開かれている。また、大晦日には除夜の鐘を撞きたい人も大勢足を運ぶ。希望者には多聞保存会の人から整理券が渡され、108人に限り順番に除夜の鐘を撞くことができる。参拝には、駐車場にも限りがあるので、基本的には公共手段を利用して徒歩で行くのが良いだろう。院内にはゴミ箱は設置されていないため、参拝中に出たゴミは持ち帰るというマナーを守っていただきたい。また、「こうべ花の名所」50選の一つにも数えられているカキツバタが院内に多数植えられている。カキツバタは5月下旬ごろに見頃をむかえるので、その季節に足を運ぶのも。