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落語家・桂福点さんによる講演会 「私を検査に連れてって~コロナの谷間で考える誰もが安心できる社会とは~」

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8月9日(日)、しあわせの村研修館ホール(北区しあわせの村)にて、落語家・桂福点さんによる「私を検査に連れてって~コロナの谷間で考える誰もが安心できる社会とは~」の講演会が開催され、63人が参加した。 (主催/公益財団法人こうべ市民福祉振興協会)

コロナ禍における「新しい生活様式」が勧められる中、障がい者がどんなことで困っているのかを笑いと感動の話術で説く講演。全盲という障がい者の立場から自身の体験やこれまでの歩みを振り返ることで、誰もが安心できる「社会」のあり方や、障がい者との関わり方を考えるきっかけにと開催された。

桂福点さん

桂福点さんは、桂福団治の10番目の弟子なので「ふくてん」と名前の由来を説明し「2番目やったら『ふくつう』になってた」と笑いを誘った。コロナ禍に関して「飛沫が飛ぶから歌ったらあかん、笑うたらあかんで難儀しました」と話す。当面の仕事がすべてキャンセルになる中で、YouTubeだったら笑いを届けられるのではと、視覚障がい者の直面する問題をテーマに動画を制作。さまざまな困難を笑いに変えて配信している。

感染拡大を抑えるソーシャルディスタンスや接触を避ける行為は、視覚障がい者にとっては死活問題、生活は一変した。手が目の役割を果たすため触らなければやっていけないが、感染予防で手袋を使用すると手の感覚が鈍くなる。出かけるときはガイドヘルパーを頼ることになるが、手を引いてもらうと濃厚接触になるなど、感染の不安からガイドの支援も減った。万一発熱で病院や保健所へ行こうと思っても一人で行くことはできない。「私コロナっぽいんで保健所まで連れていってもらえませんか」と言ったら「エー?!」ということになる。濃厚接触を避けながら医療機関までどのように行けばいいのか、入院や隔離生活中、人の手に頼らず一人で生活できるのかなど不安は尽きない。福点さんは近頃は電車のプラットフォームなどで「危ないで!」と声をかけてくれる人がいなくなったと話し、今まで通り「左やで、右やで」と声掛けしてほしいと訴えた。そしてマスクで口の動きがわからない聴覚障がい者の苦労や車椅子利用者の問題にも触れ、障がい者に対して国の対策は遅れていると指摘した。

福点さんは会場の子どもたちに「ぜひ障がいのある子どもたちとお友だちになってください」と話し「人のつながりが大事。コロナで人間関係の距離まで離れたらあかん」と呼びかけた。そして〝メール〟という持ちネタを披露し「落語家としては変わっているが、耳や目の不自由な人に喜んでもらえる。何か工夫したら一緒に楽しめる」と、譲り合いや理解で社会が暮らしやすくなることを伝えた。

片岡法子さん

感染対策「紙の導き」を披露

続けて、長田のコニュニティ放送局FMわぃわぃ「むしMEGAネット」で共演している朗読家の片岡法子さんが登場。片岡さんは福点さんのガイドヘルパー(同行援護)も務める。福点さんが考案し動画の中でも提案している感染対策を紹介し、会場の参加者と一緒に実演してみせた。新聞紙を丸めて作った棒(通称・紙の導き)を電車ごっこのように使い、ガイドする人との距離を確保しながら誘導する。これなら緊急事態に病院で隔離する時など医療関係者が誘導するのにも有効だとアピールした。

福点さんは「情報交換は大切だがスマホを使いこなせない人もいる」と情報格差の問題についても触れ「つながりを失ったら、生きづらい状態になることを理解してほしい。声掛けなどいろいろな工夫でつながっていてほしい」と呼びかけた。

左から森田奏大くん、響くん兄弟

友人とサイクリングに来て、偶然この講演会を知ったという戸川昭美さん(長田区長尾町)は「福点さんをバリバラで見たことがあったのでうれしかった。お互いに困っていることを話し合えたらスムーズなコミュニケーションがとれるのでは」と話した。森田奏大くん(小部東小4年)は「落語は初めてだったので感動した。視覚障がいの人がコロナの中でどのように生活をしていたかがわかった。障がい者のことを考えて過ごせたらいいと思った」と元気よく答えた。

主催のこうべ市民福祉振興協会の三木孝会長は「気持ちを全面に出した講話は心に刺さり、社会が動く」と福点さんの話術に感心を示し「コロナ自粛解除後の初めての講演会で、しあわせの村ならではの一歩となった。子どもたちも障がいを持つ人も参加者全員が一つになり作り上げた会だった」と話した。

〈桂福点(かつらふくてん)〉  生後すぐに先天性緑内障と診断され、中学の時に失明。舞台や音楽に惹かれ大阪芸術大学へ進学し、音楽療法の研究に取り組む。その後、桂福団治に弟子入りし、落語家となる。NHK・Eテレ障害者情報バラエティー「バリバラ」などに出演。上方落語協会会員。

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