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須磨区

須磨寺副住職 小池陽人さん

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古くから「須磨のお大師さん」の名で親しまれる須磨寺(須磨区須磨寺町)の若き副住職、小池陽人さん(33)。 仏教離れを危惧する陽人さんは、ユーチューブで法話を配信したり、音楽法要祭「須磨夜音」、若手僧侶たちが法話の巧みさを競う「H1法話グランプリ」の開催など、これまでにない新たな試みを続けている。

●9歳で「陽人」の僧名を授かる

陽人さんは東京都の西南部にある多摩ニュータウンで4人兄姉の末っ子として生まれ育った。須磨寺は陽人さんの母親の実家で、祖父の葬式の際、同寺管長の叔父から「おじいちゃんをお坊さんとして見送ってあげなさい」と話があり、本葬が行われる前日に得度し「陽人」という僧名を授かった。

●お寺の役割に目覚め僧侶の道を決意するまで

僧名を授かったものの、将来僧侶として生きていくビジョンはなく、サッカーと音楽に熱中する学生時代を過ごした。大学卒業まで仏教にふれることはほとんどなかったという。奈良県立大学の地域創造学部に進学。「地域コミュニティ(地域のつながりの場)を作ること」をテーマにまちづくりについて学ぶ中で、地方では限界集落など元々あった共同体がなくなり、都会ではたくさんの人がいるにもかかわらず、人とつながらない孤独感や孤独死などの問題があることを知る。人と人とがつながる仕事をしようと思ったとき、お寺はそもそもそういう場だったことに気づく。悩んだ末に叔父のアドバイスを受け、卒業後すぐに僧侶になることを決意した。

●「あるがまま」「祈りの力」を心に刻んだ修行時代

大学卒業後、僧侶になるため、修行が厳しいとされる醍醐寺の修行道場「伝法学院」に入山。一切娯楽のない、1日も休むことのない過酷な1年を過ごす。修行が終わるも束の間、四国巡礼に出発し、四国八十八カ所と別格20霊場を44日間かけて1600㎞の道のりを野宿しながら歩いて巡った。四国には「お接待」というお遍路さんに対して、食べ物や飲み物、宿などを無償で施す文化が根付いており、お遍路さんというだけで受け入れる姿にどれだけ救われ、安心感を得たか。 「あるがまま」に受け止めることの大切さを思い出させてくれた巡礼の旅だったと話す。

その後2年間、非常に厳しい修行をしていると言われる宝塚市の清荒神清澄寺 (きよしこうじんせいちょうじ)で天堂番として仕えた。

●お寺を身近に感じてもらうための新たな取り組み

2011年、清荒神清澄寺での修業が終わり、須磨寺副住職となる。2015年から音楽法要祭「須磨夜音」を開催。同寺と一絃須磨琴保存会、元ブルーハーツの梶原徹也さん率いる芸能集団〝神紗shinsya〟が始めた源平戦士の供養を通して平和を祈る音楽法要。2017年からは声明コンサートを実施している天台宗の僧侶とともに、宗派を超えて祈りの場を作ろうと毎年10月に開催している。

2019年6月には、僧侶が仏教を説く法話を披露し「もう一度会いたいお坊さん」ナンバー1を選ぶ「 H1法話グランプリ~エピソード・ZERO」を企画、実行委員長を務めた。宗派や地域を超えた僧侶8人が集い、法話を披露し合う初めての取り組みを行った。

2017年6月からは、電鉄商事株式会社DTSコミュニケーションズの代表・山端秀明さんとの縁により、ユーチューブで法話「小池陽人の随想録」を配信することになった。仏教界では40代でもまだ若手と言われる中、自分が配信することにためらった時期もあった。しかし僧侶として日々仏教の教えに触れる中で、弘法大師様なら現在の最新技術を駆使しても、仏教を伝えたのではないかと考え、思い切って挑戦することを決めたという。

多くの反響を得る中でネットニュースにもなり、柏書房の青木真理さんに書籍化の話をもちかけられ、今年3月に同社から出版。生活の中で抱える悩みや苦しみに寄り添い「仏教の智慧」を深く理解してもらえるよう、ユーチューブ法話で配信した内容に編集を加え、誰にも通じる普遍的な教えを掲載。一日の始まりや終わり、生きづらさを感じた時など、ゆったりとした気持ちで読んでもらえたらと話す。

●「生きづらさ」から抜け出す視点

仏教といえば「葬儀や法事の時にだけ触れるもの」という認識が強く、その教えは「亡くなった方のため」というイメージが持たれている。しかし、お釈迦様や弘法大師様が残された仏教の教えは、今生きている我々の苦しみ、その苦しみとどう向き合っていけばいいのか、「生きるための教え」であり、悩み苦しい時に仏教の教えを心の拠り所にしてもらいたいと、法話や行事を行っている。

仏教はすなわち「悩みがあっていいんだよ」という教えである。人生は幸せ一色ではない。幸せでないときも自分をありのままに肯定し、ダメな自分、落ちてしまった自分をもまた自分だよねと否定しない。つまり、仏教は悩みを取り除く教えではなく、悩みとともにどのように生きていくか、悩んだ時にそっと寄り添ってくれる教えだと感じてほしいと話す。

●写経のすすめ

陽人さんは、新型コロナウイルスによる社会不安に対し、何かできることはないかと模索。平安時代に弘法大師様は写経の功徳で疫病を収めたと言われていることから「写経のすすめ」を始めた。須磨寺のホームページより写経用紙をダウンロードし、自宅で写経したものを須磨寺に送ってもらい、毎朝の勤行で祈りを捧げることを決めた。やり場のない心の不安を少しでも楽にし、安心(あんじん)を得てもらいたいと呼びかけている。

●目指すこれからのお寺の姿

今の日本では、お寺や僧侶は非日常の存在になっている。仏教やお寺が日常の一部になれば役割が見直されてくるのではと考えている。 お勤め、お祈り、外に出て発信していくなど、真剣に頑張って取り組んでいる姿を知ってもらおうと努めている。

言葉そのものよりも話している姿や姿勢が重要だと思う。仏教の良さを知ってもらい、「顔をみるだけで安心するわ」と思ってもらえる、存在そのものが生き仏的な坊さんを目指したいと、陽人さんは穏やかに語った。


*須磨寺ホームページ https://www.sumadera.or.jp/

*自宅写経のすすめ(須磨寺HP内) https://www.sumadera.or.jp/oshirase/jitakusyakyo.html

*ラジオ関西「田辺眞人のまっこと!ラジオ」 AM 588 / FM 91.1 毎週金曜15:00~17:40

ラジオ法話「心の深呼吸~須磨寺副住職小池陽人にきく~」コーナー担当(17:28より6~7分)

*Facebookもあり。「小池陽人」で検索。

 

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