神戸の農村歌舞伎
9月15日(日)、西区民センター(西区糀台)のなでしこホールで、西区の子どもたちや「神戸はことら座」による「神戸の農村歌舞伎」が行われ、会場はアットホームな雰囲気に包まれた。
江戸時代の庶民の娯楽であった農村歌舞伎は都市で流行った歌舞伎が地方に伝わり村人たちが演じた地芝居で、秋の収穫を祝うなど土地の祭礼として行われた。当時盛んであった北神戸には農村歌舞伎舞台が多数残っている。
平成26年、芝居を演じる楽しさを子どもたちに伝えたいと北区在住の加藤直子さんが神戸農村歌舞伎保存会を立ち上げた。専門的な「歌舞伎」とは違い、むかし地域で楽しんだ村祭りのような芝居を子どもたちに伝え育成している。
西区の子ども歌舞伎は、文化庁の補助を受け毎年西区民センターが演者を公募。今年は小学生を中心に4〜6歳の幼児と中学生1人を含む15人が集まった。子どもたちは4月から練習を始め6演目に挑戦、今回で5回目の舞台となった。
舞台の初めに、加藤会長の音頭で子どもたちが見得(みえ)を切るときの声かけ練習を行った。「現代は『子宝』という言葉が忘れられた。子どもは褒めて育てることが大切」と話し「見得が決まったなと思ったらおひねりや声掛けをお願いします」と会場に呼びかけた。
舞台の幕開けは、「口上と子宝歌舞伎」。小学1年から3年の女子5人が「さくらさくら」の音楽に合わせて舞い「東西東西」と口上をのべ、子宝歌舞伎の幼児6人を一人ひとり舞台へと招き入れた。かぐや姫や金太郎など、おとぎ話の主人公に扮し舞台に立った幼児がそれぞれに見得を切るとその愛くるしい姿におひねりが投げられ、大きな拍手が沸き起こった。この演目は三代目市川箱登羅(いちかわはことら)の作品で「上を向いて歩こう」で幕となる。
2演目目は「白波五人男」。粋な弁天小僧姿の小学生と中学生の男子5人が下駄を履き、番傘をもって見得を切った。その後「仮名手本忠臣蔵~裏門の場」「三人吉三」「桜門五三桐」と続き「こども勧進帳」で締めくくった。会場からは子どもたちが見得を切る度に「待ってました!」「よくやった!」「日本一!」と声掛けがあり、おひねりを投げ、温かい拍手をおくった。
演目の途中には神戸農村歌舞伎保存会の生田浩副会長による農村歌舞伎のレクチャーがあった。現在も神戸に残る7~8カ所の農村歌舞伎舞台の話や、神戸農村歌舞伎の歴史、また日本で最も新しい農村歌舞伎舞台のある西区木津の顕宗仁賢神社の祭りなどを紹介した。最後に垂水区の「神戸はことら座」による「勧進帳」で幕は下りた。
西区美賀多台の伊東憲子さん(70代)は「子どもたちがかわいくて、とても楽しい舞台でした。木津のお祭りは知らなかったので副会長さんのお話も興味深かった」と笑顔で話した。こども勧進帳で弁慶を演じた堅田悠斗くん(出合小5)と、富樫左衛門を演じた田邉哉多くん(井吹の丘小4)は「練習よりも本番が楽しかった」と声を揃えた。加藤さんは「子どもたちは舞台本番後、確実に成長している。その姿が一番の醍醐味」と熱く語った。
次回の西区子ども歌舞伎は10月19日(土)西区木津の顕宗仁賢神社の秋祭りで公演。
※神戸農村歌舞伎保存会/甲南大学歌舞伎文楽研究会の講師でもあった歌舞伎役者・故三代目市川箱登羅が、平成2年より約20年にわたり神戸市北区で農村歌舞伎を指導。その教えを後世に残すべく平成26年に設立。 ※はことら座/三代目市川箱登羅から直接指導を受けた「神戸すずらん歌舞伎」、「甲緑子たから歌舞伎」、尼崎市の「新尼崎歌舞伎」、大阪府の「澪つくし歌舞伎」の有志が平成22年、地域を越えて一座を設立。「文七元結」「寿 鳴神」などの演目をもつ。