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須磨区

刺しゅう画作家 山上雅子さん

須磨区北落合に住む山上雅子さん(82)は刺しゅう人生60年。自宅は色とりどりの美しい刺しゅう作品で埋め尽くされ、まるで美術館のよう。これまでに手掛けた作品はクッションやテーブルセンター、バッグなど300点以上、色紙大から20~50号の刺しゅう画は270点余りにのぼる。今年の暮れを目標に、娘の智子さんや友人知人の協力を得て、集大成となる作品集の完成を目指している。

出身は岡山県井原市。23歳で結婚し夫が勤務する広島県呉市へ。ある日、初めて訪ねた知人宅が美しい刺しゅう作品で彩られているのを見て感動したことをきっかけに、フランス刺しゅうの世界へ誘われた。結婚前は洋裁や編み物が得意で、娘の手作りのブラウスやスカートの裾、手提げバッグなどにも次々と刺繍をちりばめた。34歳の時、明舞団地の文化祭で山上さんの作品が一等賞を取ったことで教えてほしいとの声が相次ぎ、和田岬や江井ヶ島、自宅の三箇所で教室を開き、多くの女性たちに刺しゅうの魅力を伝え続けてきた。7年前、車の運転をやめたことを機に教室は自宅のみにし、月に二度、40年以上のつきあいになる生徒5人とおしゃべりしながら楽しんでいる。

竹林の小径

錦秋

とら

 

山上さんの作品でとりわけ目を見張るのは50号(長辺が1mを超える)の大作。54歳の時、初めて個展を開き、その際、油絵作家の太洋美術家協会会長から、ぜひ会員になって太洋美術展に出展してほしいとの申し出があった。その要望に応え、日本で初めて刺しゅう画50号の作品づくりに挑戦、1年かけて「真っ朱な牡丹の花」を完成させた。平成13年には神戸市長賞、平成16年に文部科学大臣賞を受賞するなど、これまで数えきれないほどの賞を受賞。19年からは同協会の委員となり、現在も尚、顧問を務めながら、50号画の出展を続けている。

左が「瀬戸内の島々」

山上さんの作品は鳥の図柄が一番多く、ツルやクジャク、キジなどが生き生きと表現されている。その他、花や縁起物、風景画などを440色の糸で多彩に表現している。中でも平成22年の作品「瀬戸内の島々」は画家からも評判が高く「あの作品を忘れられない」「何年経っても目に浮かぶ」など大阪、広島、京都などから手紙が届くほど。平成29年4月にKOBE須磨きらくえんギャラリーで「傘寿記念刺繍画展」を開催した折に出版した画集には「瀬戸内の島々」が表紙を飾った。

「針を刺さないと何だか忘れ物をしたみたい」と笑うほど、刺しゅうをすることが日課となっている山上さん、ピーク時には一日13時間を費やし、旅行先にも必ず2~3色の糸と針をバッグにしのばせたという。現在は「認知症の予防に」と笑いながら、日中はなるべく友人とお茶をするなど外に出かけるようにし、夜2時間ほど集中して刺しゅうに向かう毎日だそう。その気力・体力を支えるのは毎朝のラジオ体操とグランドゴルフ。ラジオ体操は昨年、参加六千回の表彰を受け、グランドゴルフは平成24年の熊本県シルバースポーツ交流大会「熊本ねんりんピック 」の個人戦で15位に輝いた。

手にするのは刺しゅう糸の整理袋

神戸新聞主催の「歳末助け合いチャリティー美術展 」に10年以上出展し、今年3月にも個展を開いた山上さんは「皆さんに喜んでいただき本当に幸せです」と笑顔。「刺しゅうは生きがい。こうして好きなことができるのも家族やみんなのおかげ、感謝しかありません」と少女のようにキラキラと目を輝かせた。

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